経営力向上計画をご存じでしょうか。経営力向上のための人材育成や財務管理、設備投資などの取り組みを記載した「経営力向上計画」を、大臣に申請して認定されると、中小企業経営強化税制(即時償却)や、金融支援が受けられるものです。高価な設備投資を導入する際には、対象となる設備かどうかを検討しておきたい制度となります。
1.経営力向上計画のメリット
2. 4つの経営強化税制とは
3. 計画書に記載する内容
1. 経営力向上計画のメリット
経営力向上計画を申請・認定されることによるメリットは大きく分けて3つあります。
税制措置、金融支援、そして法的支援です。その中でも、補助金を活用した設備投資でよく活用されるのが税制措置です。
税制措置とは、導入した設備に対して即時償却あるいは税額控除を受けられるというものです。
一般的に、導入した設備はある一定期間使うものですので、複数年にわたり減価償却という経費で費用計上していくものですが、即時償却とは、導入した年度にて一括して減価償却費として費用計上してしまうことです。
減価償却費の総額は、通常の減価償却でも即時償却でも変わりません。ただ、設備を導入した年度はキャッシュフローが悪化して法人税を支払うことが負担になることがあります。資金繰りの悪化を防ぐために、導入年度に即時償却として将来計上すべき費用を前倒しして計上してしまうことで、導入年度の法人税の支払額を抑えることができます。
しかし、翌年以降は減価償却費を計上することができないため、その分だけ法人税の支払い額は増えることなり、結果として減価償却期間に支払う法人税の額は同じになります。
一方、税額控除は、設備投資を行た年度に支払う法人税を、設備の取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)相当額を控除できるというものです。
通常の減価償却費として複数年にわたって費用計上するほかに、導入年度の法人税が控除されるため、実質的に支払う法人税は減少します。
ただ、控除できる法人税額には上限がありますので、それを超える金額については、翌事業年度に繰り越すことができます。
2. 4つの経営強化税制とは
前項で述べた税制措置の恩恵を受けるためには、一定の要件を満たした設備を導入し、しかるべき機関で確認を受ける必要があります。
要件や確認機関によって4種類の類型に分けることができます。ここでは、申請者の負担が少ないA類型とC類型について説明します。
A類型とは、導入する設備が「生産性向上の設備要件」を満たしている場合に適用可能です。
生産性向上の設備要件とは、①一定期間内に販売されたモデルであること、②経営力の向上に資するものの指標が旧モデルと比較して年平均1%以上向上しているもの、を指します。では、導入する設備がそれらの要件を満たしているかどうかを判断する方法なのですが、設備を購入する代理店に「工業会等の証明書」を取得できるかどうかを尋ねるとよいでしょう。
C類型とは、導入する設備が「デジタル化設備の要件」を満たしている場合に適用可能です。
デジタル化設備の要件とは、事業のプロセスにおいて、①遠隔操作、②菓子あ、③自動制御化のいずれかを可能にする設備を指します。
なお、A類型の場合は、工業会がその生産性要件を証明してくれますが、C類型の場合は事業者が証明する必要があります。
①遠隔操作とは、まずデジタル技術を用いて遠隔操作を行い、その目的として事業を非対面で行うことができるようにすること、あるいは、事業に従事する者が、通常行っている業務を、通常出勤している場所以外の場所で行うことができるようにすること、を満たしている設備である必要があります。非対面のレジや、リモートワーク導入設備などがイメージしやすいかと思います。
②可視化とは、データの集約・分析をデジタル技術を用いて行うことを目的として、そのデータが現在の事業や事業プロセスに関係するものであること、そして、最新の状況を把握し経営資源等を最適化することが可能になる設備である必要があります。これまで、経験や感覚で行っていた作業をデータ化して集約し、経験者のスキルによらずだれでも同等の品質を実現できる工業用センサーなどがイメージしやすいかと思います。
③自動制御化とは、デジタル技術を用いて、状況に応じて自動的に指令を行うことができることを目的とし、経営資源等を最適化することが可能になる設備である必要があります。自動車の例で言うと、人間が運転席に座ってハンドルを握り、前方や周りに注意を向けながら、加速したり停止したりしていた運転作業を、カメラと制御装置により運転が自動で行われ、人による判断が不要になるような状態をイメージするとよいかもしれません。
申請する事業者が、導入する設備がこれらの要件に基づくことを説明する資料を作成し、経営革新等支援機関(認定支援機関)に「事前確認書」を発行してもらい、それを経済局に申請して「経済局確認書」を発行してもらうことが必要になります。
3. 計画書に記載する内容
さて、税制措置の恩恵を受けるための書類が整ったら、経営力向上計画を作成していきましょう。
申請先はおおむね業種で別れており、そして申請先によりその申請方法がオンラインと郵送で異なります。
例えば、製造業で導入する設備が工作機械であったりCAD/CAMソフトウェアである場合、その申請先は経済局になります。
食料品製造業で食品加工設備を導入する場合は、その申請先は農政局となります。
現在、経済局に申請する場合はすべてオンライン化されております。そのほかの場合は、紙で郵送となります。なお、オンラインの場合は、事前に申請する項目を下書きしておけば、申請作業がスムーズに進みます。
申請書の様式には、様式1と様式2がありますが、不動産取得税の軽減措置を活用しない場合は、様式1で申請します。
様式1は、表紙と別紙に分かれており、主な項目は別紙に記入します。
別紙の入力は、経営力向上計画のウェブサイトの申請書記載例を参考にすれば作成できるものですが、主な箇所は4つあります。
なお、税制措置を受けたい場合は、項目8.経営力向上設備等の種類 まで入力してきます。
項目2. 事業分野と事業分野別指針名
事業分野には、日本標準産業分類の中分類と細分類を入力します。また、事業分野別指針名には、ウェブサイトの「事業分野別指針の概要について」を参照に、業種別の指針を確認します。製造業であれば、「製造業の指針」が該当します。この時、「目標とする指標及び数値」を確認しておきましょう。
項目4.現状認識の③自社の経営状況
財務諸表を確認して指標を入力していきます。電子申請の場合は自動計算されますが、紙での申請の場合、ローカルベンチマークのエクセルに指標を入力して評点を算出する必要があります。
項目5.経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
項目2で確認した目標となる指標を選択し、数値を入力します。電子申請の場合は指標算定根拠のセルに数値を入力すれば指標が計算されて反映されますが、紙での申請の場合は算定根拠をきちんと示しておきましょう。
項目6.経営力向上の内容
項目2で確認した指針の「実施事項について」のなかから項目を選択します。業種によっては従業員の規模に対して選ぶ項目数が分かれていますので注意しましょう。
いかがでしたでしょうか。もし、高価な設備投資を検討しているのであれば、経営力向上計画を申請して、自社の経営状況をなるべく有利な状態にしたいものです。
なお、原則として設備取得前(納品前)に承認を得る必要があります。
特に、工業会の証明書を取得する場合、手配に時間がかかることが予想されますので、準備は早めにしておきましょう。