その時間単価、根拠がありますか|人と機械のレートの作り方と「値上げしたつもり」の落とし穴

「見積もりは合っている」はずなのに、粗利が下がっていく

個別受注生産、多品種少量の機械加工業では、「見積もりは出している」「材料の値上げも賃上げも反映している」というのに、決算を見ると粗利が下がってきている、という相談をよく受けます。実際、こうしたご相談は「原価がわからない」という自覚から始まるより、経営分析で粗利の低下傾向を見つけたところから、「そもそも原価計算ができていないのではないか」という流れで始まることの方が多いのが実情です。

目安として、直近数期の決算で粗利率が下がる傾向が続いている、あるいは受注量は変わらないのに現場が以前より忙しく感じる、という場合は、見積もりの前提そのものが実態からズレている可能性を疑ってよい段階です。逆に粗利率がほぼ一定で推移しているなら、レートの更新自体は差し迫った課題ではないかもしれません。

この記事では、見積価格をどう分解して考えるべきか、そして多くの会社で崩れがちな「製造費のレート」の考え方を整理します。読み終えたときに、自社の原価計算シートのどこが怪しいか、当てはめて考えられる状態を目指します。

なぜ「値上げしているつもり」でも粗利が戻らないのか

よくあるのが、次のようなどんぶり勘定です。

  • 「材料が10%値上げしたから、見積もりも10%値上げしましょう」
  • 「賃上げが5%だったから、売価も5%上げましょう」

これが誤りである理由は、賃上げ5%が効いてくるのは労務費という製造原価の一部にすぎない、という点です。労務費が売価全体に占める割合はそれよりずっと小さいはずなのに、5%という数字を売価全体にそのまま乗せてしまうと、実際に上げるべき額とズレが生じます。「反映している」と言っている担当者本人が、実際にどれだけ上げられているかを把握できていないケースも少なくなく、経営者の思い込みだけで済んでしまっていることもあります。

この構造的なズレを避けるには、見積価格を次の3つに分けて考える必要があります。

  • 製造原価:工場でものを作るためにかかったコスト
  • 販管費:会社を運営するためのコスト
  • 目標利益:経営としてどれだけ利益を確保するかという経営判断

この3分解が本記事全体の地図になります。以降、それぞれの中身を見ていきます。より広い範囲――見積もりの作り方から社内浸透までを含めた全体像は、IoT・現場と原価の見える化のページでも整理していますので、あわせてご確認ください。

見積価格を3つに分ける ― 製造原価・販管費・目標利益

この3つがきちんと分かれていないと、「よく分からない見積もり」が出来上がります。製造原価に販管費の一部が紛れ込んでいたり、目標利益のつもりで積んだ数字が実は販管費の穴埋めになっていたり、という状態です。

自社の原価計算シートが「怪しい」かどうかは、次の3点で確認できます。

  • 製造原価・販管費・目標利益の3構成に分かれているか
  • 製造費(人・機械)の「レート」が数字として出ているか
  • そのレートに根拠があるか(何となくの数字ではないか)

この3点のいずれかが崩れている場合、見積もりの精度は上がりません。特に多いのは、目標利益の欄が存在せず、製造費のレートを高めに見積もることで結果的に利益を確保している、というケースです。この状態だと、レートが実態と合っているのか、それとも利益を上乗せするための調整弁になっているのかが、見た目からは判別できません。次章では、特に崩れやすい「製造費」を掘り下げます。

製造原価の中で一番崩れやすい「製造費」

材料費・外注費は分かりやすい ― ただし「引き当て」が要

材料費・外注費は伝票を見れば分かるため、比較的把握しやすい部分です。ただし問題は、その伝票が「どの製品にきちんと引き当てられているか」です。伝票が存在していても、どの製品にどの材料を使ったかの紐付けができていなければ、原価計算上は意味を持ちません。

典型的につまずくのは次の2パターンです。

  • まとめて発注した材料を、使った分だけ製品に計上できていない
  • 複数の製品で共通して使う副資材を、按分せずどこかの製品にまとめて乗せてしまっている

この引き当てができていれば、材料費・外注費については解決に近づきます。判断基準としては、「発注書は製品単位で管理しているが、実際の使用量は現場任せになっている」という状態があれば、引き当ての精度に疑いを持ってよい目安です。

製造費は「人のレート」と「機械のレート」に分けて考える

財務会計上は「労務費+製造経費」ですが、実務としては「人の製造費」と「機械の製造費」に分けて、それぞれ「レート×時間」で計算すると考えやすくなります。

人のレートは、賃金台帳をもとに算出します。ここで多くの会社が誤るのは、時給の数字をそのままレートとして使ってしまうことです。実際には、本人には直接支払っていないものの、会社が負担しているコスト――法定福利費や福利厚生費――が乗ります。法定福利費は会社負担分を合わせると2割弱の水準になり、時給の数字だけを使う場合に比べて1割程度は上振れする感覚を持っておくとよいでしょう。あくまで目安であり、実際の料率や自社の福利厚生の内容によって変わりますので、正確な料率は最新の公的情報でご確認ください。

機械のレートは、減価償却費を参考にします。ここで注意が必要なのは、「償却が終わった機械のレートをゼロにしない」ということです。ゼロにしてしまうと、その機械を使う製品の原価が実態より低く見えてしまい、いずれ新しい機械に入れ替えたときに原価が急に跳ね上がる、という失敗につながります。取得原価を想定耐用年数で割り直す形で考える、あるいは同等の機械を新規に購入する場合の価格を参考にするなど、会計上の減価償却とは異なる考え方で、実際の稼働時間・稼働年数に応じたレートを維持しておく必要があります。

レートを組み立てる際に迷いやすい3つの論点

レートは個人ではなく部署単位で

人のレートを個人単位まで細かく特定すると、その人個人の給料が分かってしまいます。そのため、実務では部署単位でレートを組み立てるのが基本的な考え方になります。部署単位というのは、たとえば「旋盤」「溶接」「仕上げ」といった工程ごとのグルーピングを想定しています。工程が細かく分かれすぎている会社では、まずどの単位でレートを持つのが現場の実態に合っているかという整理自体に手間がかかります。

作業者と管理者は分けないと原価が過大になる

部署のレートを一括りに計算し、作業者と管理者を分けずに算出すると、管理者の人件費がすべての製造原価に均等に乗ってしまい、原価が過大に見積もられます。作業に直接携わる時間と、管理業務に携わる時間は性質が異なるため、分けて考える必要があります。

管理者の人件費は製造費か販管費か

ここが最も判断に迷う論点です。ある部署に専属で付いている管理者であれば製造費に含める考え方が自然ですが、工場全体を横断的に見ている管理者の場合は、販管費として扱うケースもあります。この線引きは、その管理者が実際に製品の製造にどれだけの割合で関わっているかを見て、その割合分を製造費に、残りを管理費として配賦するという考え方が基本になります。加えて、決算書上でその人件費がどこに位置づけられているかも、判断の参考材料になります。

この配賦の判断は、賃金台帳や決算書の見方に慣れていないと線引きが難しく、自社の担当者だけで進めると、どちらか一方に寄せて済ませてしまいがちな部分です。たとえば、製造部長が生産管理と品質対応を兼務している場合、どの業務にどれだけ時間を使っているかは本人の感覚に依存しがちで、月によって配賦の考え方が変わってしまうこともあります。

販管費は「実測」ではなく比率で見る

製造費が「人×時間」「機械×時間」で実測に近い形で算出できるのに対し、販管費はどの製品にどれだけかかったかを実測で追いかけることが難しい費用です。そのため、販管費については、決算書に記載されている販管費の額を製造原価で割った比率を参考値として使う、という考え方をおすすめします。

ただし、単年度の数字だけで見ると、その年に特殊な支出があった場合に比率が跳ねてしまうことがあります。複数年の平均で見ることで、より実態に近い比率になります。この比率は会社の事業構造によって大きく異なるため、他社の一般的な水準をそのまま自社に当てはめることはできません。自社の決算書から自社の比率を出す、という手順が必要になります。

手計算とIoTによる実測、どちらを目指すべきか

ここまでの計算は、賃金台帳や決算書といった既存の資料を使って組み立てる方法です。一方で、実際にどの製品にどれだけの人と機械の時間がかかったかを、日報の手書き・後からの記憶に頼らず、稼働データとして記録する方法もあります。どちらを選ぶべきかは、次のような比較軸で考えるとよいでしょう。

  • 費用:手計算による整理はほぼ費用がかかりませんが、実測のためのセンサーや稼働記録の仕組みには初期費用がかかります
  • 精度:手計算は「ある時点でのレート」を作るのに向いていますが、工程ごとの実際の作業時間のブレまでは追いきれません
  • 運用の手間:日報の手書き集計は担当者の負担が大きく、記入漏れ・記憶ベースの誤差が生じやすい一方、実測は初期設定の手間はかかるものの、運用が定着すれば日々の入力負担は下がります

まずはレートの根拠を整理することから始め、日報の集計に相応の工数がかかっている、あるいは工程間の時間配分が担当者の感覚に頼っている、という状態であれば、実測での見える化を検討する段階に進む、という順番が現実的です。最初から実測の仕組みを入れても、その元になるレートの考え方自体が崩れていると、出てきたデータの解釈を誤ってしまいます。

つまずきやすい点 ― 多くの会社で起きていること

ここまでの内容を踏まえて、実際の見積もりの現場で起きがちな崩れ方を整理すると、次のようなパターンに集約されます。

  • 人の工数と機械の工数が混ざったまま計算されている
  • 利益が感覚で上乗せされていて、目標利益として明確に切り分けられていない
  • レートそのものが更新されないまま長年使われている

ヒアリングを重ねる中で、レートという発想自体を持たずに見積もりを作っていた会社もありました。材料費と外注費は伝票から把握できていても、製造費については「これくらいだろう」という感覚で積んでいた、というケースです。本人たちにとっては長年それでやってきたという実感があるため、「レートの根拠が曖昧である」ということ自体に気づきにくいのが、この問題の厄介さです。

また、レートを見直しても、それだけで既存受注の採算が自動的に改善するわけではありません。レートを直した結果を新規の見積もりに反映するだけで終わってしまうと、すでに動いている既存顧客との取引条件は変わらないままなので、そこに潜んでいる採算の悪化は残り続けます。レートの見直しと、既存顧客への価格改定の交渉は、本来セットで検討すべき課題であり、後者は経営判断としての難易度が高いため、レートの整理だけで作業が止まってしまうことも起こりえます。

この段階でもう一つ有効なのが、自社の比率やレートを同業他社の一般的な水準と突き合わせて、現在地を確認することです。自社の数字だけを見ていると、それが高いのか低いのか、危険な水準なのかが判断しづらいため、外部の目線と比較する作業が診断の入り口として役に立ちます。

まとめ ― 原価の見える化は「レートの根拠」から始まる

ここまでの論点を整理すると、次のようになります。

  • 見積価格は製造原価・販管費・目標利益の3つに分けて考える
  • 製造原価のうち材料費・外注費は伝票の「引き当て」ができているかが要
  • 製造費は「人のレート」「機械のレート」に分け、法定福利費・福利厚生費を乗せ、償却済みでもゼロにしない
  • レートは部署単位で、作業者と管理者を分けて算出する。管理者の人件費は関わる割合で製造費・販管費に配賦する
  • 販管費は実測せず、決算書の比率を複数年平均で参考値とする
  • レートの整理ができたら、実測による見える化に進むかどうかは、日報集計の手間や工程間のブレの大きさで判断する

「値上げを反映しているつもり」なのに粗利が戻らないのは、多くの場合、この一連の計算の根拠が感覚に頼ったものになっているためです。

ここまで読んで、自社の原価計算シートに当てはめて考え始めた方も多いのではないでしょうか。ただ、実際に賃金台帳・工程・機械の減価償却費からレートを組み立て、部署単位・作業者と管理者の切り分け、管理者の配賦判断まで一社で整理し切るのは、想像以上に手間がかかる作業です。特に管理者の配賦や機械レートの考え方は、経験がないと判断に迷いやすい部分ですし、既存顧客への価格改定という経営判断まで踏み込むと、社内だけでは進めにくくなる会社も少なくありません。

まずは現状の原価計算シートを見てみませんか

当社では、既存の原価計算シートを見せていただき、3構成に分かれているか、レートに根拠があるかといった観点から、現状を確認するご相談を行っています。まずは無料相談フォームから、「現場・原価の見える化(IoT)」に関するご相談としてお気軽にお問い合わせください。

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