事例1:文書が散在して見つからない ― 製薬企業のドキュメント管理改善
製薬企業・従業員40名。中期経営計画でナレッジ管理が課題として挙がり、「現在のドキュメントをどう整理するか」を検討する中で、ご紹介を通じてご相談いただきました。
相談の背景
医薬品の製造に関わる文書――製造手順書、品質管理記録、試験データ、過去の生産条件や実験条件の記録など――が何十年にもわたって蓄積されています。紙の文書は複数の事業所にまたがる書庫に保管されており、必要な文書を探すには、まず書庫のある事業所に移動し、入退室の鍵をもらい、記録を書いてから入室するという手間がかかります。探して、見つけて、戻ってくる。この作業だけで半日がかかることも珍しくありませんでした。
医薬品を製造する過程では、過去の生産条件や実験条件を参照する場面が頻繁にあります。たとえば、以前と同じ製品を製造する際に、前回の条件を確認したい。品質に問題が生じた際に、過去の試験データと比較したい。週に1〜2回はこうした文書を探しに行く作業が発生しており、その都度、事業所間の移動と書庫の入退室が必要でした。
電子データも整理されているとは言い難い状態でした。個人のパソコンに保存されているもの、共有フォルダに入っているもの、社内のデータベースに登録されているもの。同じ文書が複数の場所に異なるバージョンで存在していることもありました。必要な文書を探すには、複数のデータベースを横断して検索しなければならず、どこを探せば正しい最新版が見つかるのか、誰にも確信が持てない状態でした。
製薬業界では文書の信頼性と管理体制が特に厳しく求められます。誰がいつ閲覧・編集したかの記録、持ち出しの制限、保存期限の管理――こうした要件を満たしながら、現場が使いやすい仕組みにする必要がありました。しかし、何十年分の文書を前に、どこからどう手をつければいいのか。経営者ご自身も「課題は認識しているが、整理の仕方が分からない」とおっしゃっていました。
当社の対応
まず、現状の文書管理の実態をヒアリングで把握しました。一枚一枚の文書を細かく確認するのではなく、全体としてどのくらいの量があるのか、紙とデジタルの比率はどうか、誰がどんな頻度で、どんな目的で参照しているか。ざっくりと全体像を把握していくアプローチで進めました。
ヒアリングの中で印象的だったのは、紙ベースの文書が非常に多く、過去に一度処分を試みたものの、「何を残して何を捨てていいか」の判断基準がなく、結局手をつけられなかったというお話でした。現場の方は、誰が書いたか分からないが「とりあえず残しておこう」と保管されてきた書類のことを「古文書」と呼んでいました。何十年前のものであっても、万が一必要になるかもしれない。捨てて問題が起きたら困る。そうした不安から、書類は増える一方で減ることがなかったのです。
現状を把握した上で、以下の方向性で改善策を提案しました。
文書の電子化と集約
書庫に保管されている紙文書は、OCR(光学文字認識)と生成AIを活用して電子化し、検索可能な状態で保存する方向を提案しました。電子化されていれば、事業所に移動して書庫に入る必要がなくなります。PDF、Excel、Wordなど形式がばらばらだったデジタル文書は、PDFに集約してセキュリティ保護を付与する方針としました。形式を統一することで、検索性と管理のしやすさが大幅に向上します。
アクセス管理の設計
文書の閲覧・編集・持ち出しの権限を、部署レベルで設定する体制を設計しました。製薬業界で求められる信頼性――誰がいつ閲覧したかの記録、無断での持ち出し防止――を担保しつつ、現場の業務に支障が出ないバランスを考慮しています。
ライフサイクル管理の導入
文書の保存期限が明確になっておらず、個人が自分の判断で管理していた状態を改善するため、文書の種類ごとに保存期限を明確化し、期限が近づいたら通知が届く自動管理の仕組みを提案しました。定期的に見直しのタイミングを設けることで、不要な文書が際限なく蓄積される状態を防ぎます。「古文書」についても、保存すべきものと廃棄してよいものの判断基準を整理しました。
文書管理のルールと組織体制の整備
システムを導入するだけでは、文書管理の問題は解決しません。文書の命名規則、保管場所のルール、更新手順、責任者の役割分担――こうした運用面のルールと組織体制を整備し、仕組みとして回る状態を設計しました。
お客さまの反応
課題の整理に加えて、改善のロードマップも提案しました。どんな手順で、どんなシステムを導入して、どういうスケジュールで進めていくか。具体的な道筋を示したことで、「頭の整理ができた」「次に何をすればいいかが明確になった」とおっしゃっていただきました。
漠然と「なんとかしなければ」と思っていた課題が、問題点・解決策・実行手順という形で整理される。このロードマップを参考に、お客さまのペースで改善を進めていただいています。
この事例では、システムの構築は行わず、Phase 1(業務分析・改善)の範囲で完結しています。現状を整理し、あるべき姿を設計し、改善の方向性とロードマップを具体的に提案する。この成果物をもとに、お客さま自身で改善を進めることも、次のPhaseに進むこともできます。
製造業以外の業種でも、業務フローの分析と改善設計についてはご対応可能です。
事例2:設備の電力消費量をどこからでも確認できるようにした ― マシニングセンターの稼働モニタリング
切削加工業・従業員10名。省エネ補助金を活用して新しいマシニングセンターを導入した会社です。
相談の背景
補助金の要件として、導入した設備の省エネ効果――具体的には電力消費量の削減効果を把握し、報告する必要がありました。しかし、そもそも電力消費量をきちんと計測するという発想が社内になく、計測する仕組みもありませんでした。
最近のマシニングセンターには、電力を測定する装置やソフトウェアが標準で付いているものもあります。しかし、この会社のリプレイス前の設備は30年以上前のマシニングセンターで、そうした機能は一切ありませんでした。「設備が動いている間にどれだけ電力を使っているか」は、電気代の請求書を見れば工場全体の数字は分かります。しかし、マシニングセンター1台がどれだけ電力を消費しているか、加工中と待機中でどれだけ違うか、旧設備と新設備でどれだけ差があるか――こうした情報は、別途測定器を後付けしなければ把握できない状態でした。
市販の電力測定製品もありましたが、パソコンに専用ソフトをインストールして、受信機とセットで使うローカル完結型のシステムでした。受信機の電波が届く範囲でしかデータを取得できず、パソコンと受信機が一体になっているため、設置場所が限られます。工場内の特定の場所でしか確認できず、データの蓄積や分析も手軽にはできない。経営者が事務所から確認したい、出先からスマートフォンで見たい、というニーズには対応できませんでした。
当社の対応
リプレイス前の旧マシニングセンターと、新しく導入したマシニングセンターの2台に、それぞれ電力を測定するセンサーを取り付けました。設置作業は、設備の電源ボックスを開けてセンサーを取り付けるだけ。1台あたり30分程度で完了しました。現場の作業を止める必要はありません。
市販製品との最大の違いは、データの流れです。センサーが取得した電力データは、ローカルのパソコンではなく、クラウド上のデータベースに自動で蓄積されます。データはインターネット経由で送信されるため、受信機の電波範囲という制約がありません。
専用のダッシュボードを作成し、機械ごとの電力消費量を、事務所のパソコンやスマートフォンからいつでも確認できるようにしました。日次・週次・月次の電力消費量の推移がグラフで表示され、旧設備と新設備の比較も一目で分かります。
ダッシュボードを初めて見たとき、経営者は「こういうふうに見えるんだ」と感動してくださいました。今まで電力を測定するという発想自体がなかったので、自社の設備の電力消費がリアルタイムにデータとして見えること自体が新鮮だったようです。
センサーのハードウェアからダッシュボードのソフトウェアまで、すべて当社で設計・構築しています。市販の製品では対応できなかった「どこからでも見える」「データを蓄積して分析できる」という要件を、お客さまの環境に合わせた構成で実現しました。
データで分かったこと
計測を始めてみると、いくつかの発見がありました。
一つは、待機電力が想定より多く消費されていたことです。加工をしていない時間帯――段取り替えの間や昼休みの間にも、設備は意外と電力を使っていました。待機中の電力消費は、日々の電気代の請求書だけでは見えません。計測して初めて「この時間帯にこれだけ使っている」という事実が分かりました。
もう一つは、加工する製品によって消費電力が大きく異なることでした。硬い材料を切削するときはトルクがかかるため電力消費が大きく、柔らかい材料のときはそれほどでもない。当たり前といえば当たり前ですが、データで可視化されたことで、「どの加工にどれだけの電力コストがかかっているか」が具体的な数字として把握できるようになりました。これは将来的に、製品別の原価計算にも活用できるデータです。
補助金の効果報告に関しても、今回初めてデータベースに基づいた正確な数値を提出することができました。従来であれば電気代の請求書をもとに概算で報告するしかなかったところを、設備単位の実測データで裏付けのある報告ができたのは大きな成果でした。
今後の展開
現在は、電力データを活用した設備の稼働状態の把握(稼働中/停止中の自動判定)にも取り組みが広がっています。消費電力のパターンから、設備が加工中なのか、待機中なのか、停止しているのかを自動で判別できるようになります。
また、この会社では手書きの日報で30分ごとの作業記録をつけていますが、記録しているだけで活用されていない状態でした。経営者からは「ぜひ日報のデジタル化もやりたい」というお話をいただいています。
人の作業記録とマシンの稼働データを重ね合わせることで、「この製品に、人がどれだけ関わり、マシンがどれだけ動いたか」が把握できるようになります。そこから製品別の原価の目安を算出するという方向性にも、経営者は非常に興味を持ってくださっています。
最初は電力消費量の計測という一つの目的から始まりましたが、データが取れるようになると「この数字も見たい」「あの情報と組み合わせたい」という声が自然と出てきます。小さく始めて、効果を確かめながら範囲を広げていく――この進め方が、当社が大切にしているアプローチです。


