製品別原価の見える化 ― 見積原価と実績原価の差分を検証できる状態をつくるまで

営業利益がマイナスになっている。製品ごとの原価も、おそらく赤字だろう。でも、どこに原因があるのか分からない。
このケースでは、見積計算書の見直しから、現場にセンサーを設置して実績データを取得し、見積原価と実績原価の差分を検証できる仕組みをつくるまでの流れをご紹介します。

本記事は、当社の支援内容をもとにした想定事例です。実績が蓄積され次第、お客さまの許可を得て実事例に差し替えてまいります。

ご相談の内容

金属加工業を営む従業員30名の会社の経営者から、ご相談がありました。マシニングセンター、旋盤、ワイヤーカットなどの工作機械を複数台保有し、多品種少量の受注加工を行っている会社です。

ご相談の内容は、「個々の製品で利益が出ているのかどうかが分からない。決算を見ると会社全体の営業利益はマイナスになっている」というものでした。

売上はある。受注もある。しかし、製品ごとに利益が出ているのかどうかが把握できていない。見積もりは出しているが、その見積もりが正しいのかどうか、自信が持てない。結果として会社全体の営業利益はマイナスになっているが、どこに原因があるのか特定できない。経営者ご自身も、漠然とした不安を抱えながら、日々の受注をこなしている状態でした。

お話を伺って見えてきたこと

まず、現場で使っている見積計算書を見せていただきました。Excelで数式を立てて計算しており、一見するとしっかり作られた計算書でした。しかし、中身を一つずつ確認していくと、いくつかの問題が見えてきました。

レートの根拠が曖昧だった。

製品の原価は、材料費、外注費、マシンアワーレート(設備1時間あたりのコスト)×作業時間、ヒューマンアワーレート(人1時間あたりのコスト)×作業時間という構成で計算されていました。人件費の高騰や電気代の上昇を考慮してレートは上げているとのことでしたが、レートの内訳――何をどう積み上げてその数字になったのか――がはっきりしない。なんとなく上げている、という状態でした。

そもそもフォーマットが合っていなかった。

確認を進めると、この見積計算書のフォーマットは、もともとロット生産向けの原価計算書を流用したものでした。ロット生産と多品種少量生産では、原価の構造が異なります。段取り替えの頻度、1ロットあたりの生産数、間接費の配賦方法――こうした前提が違うフォーマットをそのまま使っていたため、計算結果が実態からずれていた可能性がありました。

販管費が計上されていなかった。

見積もりに利益率を乗せてマージンを取ってはいたのですが、販管費(販売費及び一般管理費)が原価に含まれていませんでした。販管費とは、営業活動や管理部門にかかる費用のことです。これが計上されていないと、製造原価に利益を乗せたつもりでも、販管費を差し引くと実質的にはマイナスになる、ということが起こり得ます。原価と利益の区別がつかないまま、すべてがごっちゃになっている状態でした。

数式にミスがあった。

Excelのセル参照がずれている箇所がいくつか見つかりました。レートの数値もすべてベタ打ち(直接入力)だったため、入力ミスや転記ミスが発生しやすい構造でした。

計算方式が属人化していた。

この見積計算書を最初に作った担当者は、実は過去に退職しています。計算式の意味や前提条件を十分に引き継がないまま、後任の方がそのまま使い続けていました。なぜこの数式になっているのか、なぜこのレートなのか――作った本人がいない以上、誰にも確認できない状態でした。

つまり、見積もりの計算そのものに複数の問題が重なっていたのです。レートの根拠が曖昧で、フォーマットが自社の生産形態に合っておらず、販管費も考慮されていない。この状態で見積もりを出し続けていれば、知らないうちに赤字の仕事を受け続けることになります。

対応①:見積原価の計算を整理する

アワーレートの再計算

まず着手したのは、ヒューマンアワーレートとマシンアワーレートの再計算でした。

ヒューマンアワーレートは、人件費(給与、賞与、社会保険料、福利厚生費など)を年間の想定労働時間で割って算出します。ただし、労働時間のすべてが製品の加工に充てられるわけではありません。休憩、清掃、朝礼、移動など、直接作業に従事しない時間もあります。そこで稼働率を仮設定し、実質的な作業時間を見積もったうえでレートを算出しました。

さらに、部署別、直接作業者と間接作業者(管理職を含む)を区分して人件費を整理しました。直接作業者の人件費だけでなく、間接作業者の人件費をどう配賦するかによって、レートは大きく変わります。この区分が曖昧なまま「人件費÷時間」で割っても、正しいレートにはなりません。

マシンアワーレートについても同様に、設備に関連するコスト(減価償却費、電力費、メンテナンス費、保険料など)を設備の稼働時間で割って再計算しました。

これまで曖昧だったレートの内訳を、一つずつ積み上げて再計算しました。「なんとなく上げている」ではなく、人件費はいくらで、償却費はいくらで、電力費はいくらで、だからこのレートになる――根拠が明確なレートです。

見積計算書の再構成

次に、見積計算書そのものを再構成しました。

ただし、現場で使い慣れたExcelシートをガラッと変えてしまうと、混乱を招きます。現場のやり方をいきなり否定するのではなく、現場の考え方と本来の原価計算の考え方をミックスする形で構成を見直しました。

大きく変えたのは、レートや単価などの数値をベタ打ちからマスターデータへの参照に切り替えたことです。マスターデータとは、レートや材料単価などの基礎データを一箇所にまとめたシートのことです。見積計算書からはこのマスターデータを参照する形にすることで、レートが変わった際にはマスターを更新するだけで済みます。ベタ打ちによる入力ミスや転記ミスも防げます。

販管費の扱いも整理しました。製造原価と販管費を明確に分け、見積もりの段階で「この価格で利益が出るのか」が判断できる構成にしました。

対応②:実績原価を取得する仕組みをつくる

見積原価の計算を整理しても、それだけでは「利益が出ない原因」は分かりません。見積もりで計算した予定原価と、実際にかかった実績原価を突き合わせて初めて、「どこでずれているのか」が見えてきます。

しかし、この会社では実績原価を取得する仕組みがありませんでした。手書きの日報で作業記録はつけていたのですが、書いた日報を誰も確認しておらず、データとして活用されていない状態でした。設備がどれだけ稼働しているのか、人がどれだけ作業しているのか、製品ごとにどれだけ時間がかかっているのか――いずれも把握できていませんでした。

そこで、段階的に実績データを取得する仕組みを構築しました。

デジタル化するということは、何らかのデータをインプットする作業が必要になるということです。しかし、その作業が現場の負担になれば、結局使われなくなります。日報が形骸化していたのも、書く手間に対して活用されている実感がなかったからです。今回は、データ入力の負荷をできるだけ下げることを設計の基本方針にしました。

第1段階:設備と人の稼働を可視化する

最初の段階では、製品別の紐付けは行わず、まず「設備がどれだけ動いているか」「人がどれだけ作業しているか」を可視化するところから始めました。

各工作機械の前に、2種類のセンサーを設置しました。

一つは、電力を測定するセンサーです。設備の電源ケーブルに取り付け、消費電力の変化から設備が稼働しているか停止しているかを自動で検知します。現場の作業は一切変わりません。センサーを取り付けるだけで、翌日から設備ごとの稼働状況が確認できるようになります。

もう一つは、人の存在を検知するセンサーです。作業者がマシンの前にいるかどうかを検知することで、段取り作業の状況や、設備は動いているが人は別の作業をしている時間帯などが見えるようになります。設備の稼働データだけでは分からない「人の動き」を捉えるためのセンサーです。

この2つのデータを組み合わせることで、「設備が動いていて人もいる」「設備は止まっているが人はいる(段取り中)」「設備も人もいない(待機中)」といった状態が、時間帯ごとに把握できるようになりました。

第2段階:製品別にデータを紐付ける

次の段階として、取得したデータを製品別に紐付ける仕組みを構築しました。

具体的には、作業指示書にバーコードを印刷し、作業者が作業を開始する際にバーコードを読み取るインターフェースを作りました。バーコードを読み取るだけなので、手入力によるミスが発生しません。作業記録についても、手書きの日報に代えて音声入力に対応するなど、現場の方ができるだけ簡単に入力できる方法を採用しました。

作業指示書のバーコードを読み取って作業開始を記録し、センサーが取得している設備稼働データと突き合わせることで、「この製品の加工に、この設備で、実際に何時間かかったか」が自動で集計されるようになります。

対応③:ダッシュボードとして一体化する

Excelの見積計算書を整理し、センサーで実績データを取得できるようになった段階で、次の課題が見えてきました。見積原価の計算はExcel、実績データはセンサーのシステム――この2つが別々に存在していると、突き合わせに手間がかかります。Excelのまま管理を続ければ、また属人化する恐れもあります。

そこで、見積原価の計算ロジックをすべてブラウザ上のダッシュボードに落とし込みました。Excelで整理した計算式やマスターデータの構造はそのまま活かしつつ、ブラウザ上で操作できる計算シートとして再構築しました。同時に、センサーから取得した実績データも同じダッシュボード上で自動的に表示される仕組みにしました。

これにより、一つの画面の中で、見積原価の計算と実績原価の確認ができるようになりました。「この製品の見積もりではマシンアワーレート×3時間で計算しているが、実際には4.5時間かかっている」――そうした差異が、画面上ですぐに確認できます。Excelのファイルを探して開いて、別のシステムのデータと見比べて、という作業が不要になりました。

見えてきたこと

見積原価の計算を整理し、実績データを取得し、一つのダッシュボードとして一体化したことで、これまで見えなかったものが数字として見えるようになりました。

レートの再計算により、従来の見積もりがどれだけ実態から乖離していたかが明らかになりました。設備の稼働データからは、感覚では「ほぼフル稼働」だと思っていた設備が、段取り替えや材料待ちで想定以上に止まっていたことが分かりました。

見積原価と実績原価がダッシュボード上で突き合わせられる状態になったことで、「この製品は見積もりどおりに利益が出ている」「この製品は見積もりより時間がかかっていて赤字になっている」といった判断が、感覚ではなく数字でできるようになりつつあります。

今後の展望

現在は、製品別の実績データの蓄積を進めている段階です。データが蓄積されるにつれて、見積もりの精度を検証し、レートや作業時間の見積もりを実態に合わせて調整していくことができます。

最終的には、受注の段階で「この製品を、この価格で受けて利益が出るか」を数字に基づいて判断できる状態を目指しています。「営業利益がマイナスになっているが原因が分からない」という状態から、「どの製品で利益が出ていて、どの製品を見直すべきか」が見える状態へ。その基盤を、経営者と一緒に作っている取り組みです。


当社では、原価の「見える化」を改善の出発点と考えています。見積原価の計算を整理し、実績原価を取得する仕組みを構築し、その差異を確認できる状態をつくる。大がかりなシステム導入ではなく、既存のExcelシートの改善とセンサーの設置という、現場に無理のない方法で進めています。

「利益が出ていないが原因が分からない」「見積もりの根拠に自信がない」「実際の原価を把握したいが、方法が分からない」――こうした課題をお持ちでしたら、まずはお話を聞かせてください。何から始めればいいか分からない段階で構いません。現場の状況を一緒に整理するところから始めましょう。製品別原価の見える化 ― 見積原価と実績原価の差分を検証できる状態をつくるまで

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