
「ChatGPTは使っている」から一歩進めない理由
「ChatGPTは自分でも使っている。検索代わりに調べものをしたり、文章のたたき台を作ってもらったりはしている」——そんな経営者・事務責任者の方は、もはや珍しくありません。しかし、それを日々の業務プロセスに組み込む段階になると、途端に手が止まります。「どの業務から手をつければいいのか」「うちの現場に合うのか」が分からないまま、時間だけが過ぎていくケースをよく見かけます。
この段階でつまずくと、いきなり設備やツールを導入して使われなくなる、日報をiPadに入れ替えただけで終わる、といった結果になりがちです。この記事では、生成AIの使い道を整理したうえで、製造現場とバックオフィスにあるテーマを具体的に確認し、どの業務から着手するかを決めるための判断基準を解説します。
生成AIの使い道は3つ、まず狙うのは「生産性向上」
生成AIの活用は、大きく3つに分けて考えると整理がつきやすくなります。
- ①製造現場の生産性向上(日報・作業手順書・技術伝承など)
- ②バックオフィスの生産性向上(紙・FAXの処理、Excel加工、基幹システムへの転記など)
- ③経営判断の精度向上(経営数字や進捗を見える化するダッシュボードなど)
ここで押さえておきたいのは、①②と③は目的が違うということです。①②は「今かかっている作業の時間を減らす」ことが目的であるのに対し、③は「見る仕組みを作る」ことが目的です。③についても、生成AIが経営数字そのものを直接加工するというより、これまでバラバラに存在していた数字や進捗をダッシュボード上にまとめて見られるようにする、という使い方が現実的です。
私たちは、まず取り組むべきは①②の「生産性向上」の領域だと考えています。③は経営の見え方を変える取り組みであり、①②で小さな成功体験を積んでから着手したほうが、社内の理解も得やすくなります。逆に③から手をつけると、現場に「結局、経営が数字を管理したいだけではないか」という受け止められ方をされ、協力を得にくくなることもあります。まず現場の作業が楽になる実感を先に作ることが、後の展開のしやすさにつながります。
製造現場の3テーマ/バックオフィスの3テーマを知る
製造現場側 — 日報/作業手順書/技術伝承
日報は、多くの工場で「書くだけ」になっている代表的な業務です。実際の記入項目としては、名前・製品・出来高・材料を投入した時間・不具合や不良品の情報・材料のロットナンバーといったものが挙げられます。加えて、その日の作業内容やトラブルの有無、何時から何時までどの作業をしたかという時間管理、目標に対する進捗などを書かせている会社も少なくありません。
ここで難所になるのが、作業時間の記載欄です。「業務が忙しくて書けない」という声が現場から上がりやすく、また自分の作業に対する所感を書く欄は、時間がなくて書けない人と、そもそも書きたくない人が混在しやすい項目です。この欄をどう扱うかは、フォーマットを整える段階で必ず判断を迫られるポイントです。無理に全項目を残そうとするか、思い切って削るかで、その後の記入率が大きく変わってきます。なお、音声で話した内容をAIが構造化して日報の形に整える、という使い方も考えられますが、これは現時点では構想段階であり、実際に運用に乗せた実例としてはまだ持ち合わせていません。
作業手順書は、紙の状態では見やすい反面、更新が回らなくなりがちです。現場でメモ書きが加わっていくうちに、どれが最新版で、どれが承認済みのものか分からなくなる、という状態に陥りやすいのが実情です。写真や手順など最低限の情報をインプットし、文章化・整形の部分を生成AIに任せたうえで承認フローに乗せれば、承認と反映を仕組みとして回せるようになります。
技術伝承は、ベテランと若手・中途社員の間にあるギャップの問題です。伝える側もうまく言葉にできず、受ける側も経験がないために理解しきれない、という食い違いが起きやすい領域です。ベテランが話した内容を生成AIで構造化し、要点を抽出して形に残す、という使い方が考えられます。ここで作業手順書と区別しておきたいのは、手順書は日常的に使い・更新され続けるものであるのに対し、技術伝承は頻繁に更新するものではなく、ノウハウとして蓄積し、育成の時間に資料として使うものだという点です。この違いを混同すると、どちらも中途半端な運用になってしまいます。
バックオフィス側 — 紙・FAXのデジタル化/Excel加工/基幹システムへの転記
経理担当を専任で置けない20人規模の会社を例にすると、紙・FAXで届く伝票の打ち込みと整理だけで、1日3〜4時間かかっていたケースがあります。この会社では、製造現場の手書き作業報告書と、客先から届く紙の注文書を生成AI(Claude)に読み込ませ、データベース化する体験を、担当者と一緒にプロンプトを考えながら約2時間で行いました。
着手後は、この作業にかかる時間がおおよそ半減した一方で、ゼロにはなりませんでした。残るのは、AIの読み取り結果の確認作業と、自社の帳票フォーマットへの変換です。この変換部分をどこまで標準化できるかによって、残る時間はさらに縮められる余地があります。伝票データがこうして構造化されれば、そこから先のExcel加工や基幹システムへの転記も、同じ流れの延長で見直せます。ただし、加工や転記の形式が完全に固定されているのであれば、それは生成AIではなくプログラム側で自動処理する方が安定します。この線引きについては、後段の「生成AIかプログラムか」の判断基準で改めて整理します。
精度を担保するための工夫も欠かせません。数値は読み取りを間違えやすいため、検算用のExcel式を仕込み、差異が出た重要な箇所だけを表示させる設計にしています。人の名前はあらかじめ決まっているため、マスタとして事前登録しておくことで誤読を防げます。そして、AIが読み間違えた箇所は、自動で処理しきろうとせず、人間の確認に回す設計にしておくことが前提になります。「全自動化」を目指すと、かえって誤読の見逃しに気づけなくなり、後工程でのトラブルにつながりやすくなります。
ここまでの全体像や、生成AI導入の進め方をより広く知りたい方は、生成AI導入の徹底解説記事もあわせてご覧ください。
どの業務から始めるか——判断基準は2つ
製造現場にもバックオフィスにも複数のテーマがある中で、どこから着手するかを決めるための基準は、大きく2つです。
基準1:現状の作業フローと時間をヒアリングし、「一番つらい・時間をかけている作業」を特定する。対象を経理だけ、製造現場だけ、というように絞り込めば、担当者を集めたヒアリング(現状把握)→まとめて問題点を聞く回→最終提案の回、という2時間×3回程度の流れで、着手する業務を絞り込むところまで到達できます。ただし、業務フローの分析そのものに時間がかかる場合は、無理に全体を洗い出そうとせず、ピンポイントで業務を決め打ちし、先に成功体験を作ってから展開先を考えるという進め方も現実的な選択肢です。
このヒアリングでつまずきやすいのが、「一番つらい作業」の認識が担当者によってばらつくことです。経営者は「日報の書き方が雑だ」と感じていても、現場は「転記作業の二度手間が一番つらい」と考えている、というように、立場によって見えている問題が違います。この食い違いを埋めずに進めると、着手した施策が現場の実感とずれてしまい、協力が得られにくくなります。
基準2:生成AIかプログラムかを見極める。単純・規則的・定型で決まっている業務は、生成AIではなくプログラムで解決したほうが安定します(そのプログラム自体を書かせる作業には生成AIを使えます)。一方、フォーマットがバラバラで曖昧さが残る業務は、生成AIが力を発揮する領域です。この線引きを取り違えると、単純作業に生成AIを使って毎回のブレに悩まされたり、逆に曖昧な業務を無理にプログラム化しようとして仕様が固まらず頓挫したりします。
| 比較軸 | プログラム向き | 生成AI向き |
|---|---|---|
| 入力の形式 | フォーマットが固定されている | フォーマットが取引先ごとにバラバラ |
| 判断の要素 | if-thenで機械的に決められる | 文脈や曖昧な表現の解釈が必要 |
| 変更頻度 | ほとんど変わらない | 頻繁に例外・イレギュラーが出る |
もう一つ付け加えておきたいのが、客先都合の転記作業への向き合い方です。デジタルでもらえるはずの情報を紙やFAXで受け取っている、といった状況があっても、客先の作業のやり方そのものを変えさせようとするのは現実的ではありません。集めたデータをこちら側でどう処理するかを工夫する、という方針で臨むのが妥当です。
つまずきやすいポイントと避け方
- いきなり設備・ツール・生成AIの契約から入る。まずは無料の範囲で小さく試し、成功体験を作ってから展開範囲を広げるべきです。設備投資を先に決めてしまうと、業務に合わなかった場合の後戻りが大きくなります。
- 日報をただiPadに入れただけで終わる。入力手段を変えても、書く項目や運用の設計が変わらなければ、効率化にはつながりません。手書きの日報が「書くだけ」で見返されていない状態と、実質的に変わらないままになってしまいます。
- 所感欄など、書かれない項目を無理に残そうとする。時間がなくて書けない、そもそも書きたくない、という項目を形だけ残すと、その欄自体が形骸化し、他の項目の記入精度にも悪影響が及びます。
- 紙の手順書にメモが積み重なり、最新版・承認版が分からなくなる。更新のたびに承認フローを通す仕組みを組み込んでおかないと、同じ問題が生成AI導入後も形を変えて再発します。
- 担当者一人の判断で進めてしまう。現場の「つらさ」の認識は部署・立場によって異なるため、複数人にヒアリングせずに一人の意見だけで着手業務を決めると、実際に導入したあとで「そこじゃない」という反応が出ることがあります。
無料から始めて、有料化・全社展開はここで判断する
いきなり全社契約や本格的なシステム構築に進む必要はありません。まずは個人契約のサブスク(月20ドル程度の安いプランから)で試すところから始めるのが現実的です。機密情報や取引先の個人情報を扱う場合は、無料版・個人契約の範囲でどこまで入力してよいかを事前に社内で線引きしておく必要があります。
有料化や全社展開を検討するタイミングの目安は、次のような状態になったときです。
- 「あれもこれもやれそうだ」と展開の見通しが立ってきたとき
- 無料版では入力できる情報量に制限があり、もっと入れたいと感じるようになったとき
ここまで来ると、社内の稟議を通す段階に入ります。個人契約での試用がうまくいけば全社展開を検討する、あるいはアプリやシステムとして構築し、API従量課金で運用するという選択肢も出てきます。ここは自社の状況によって判断が分かれる部分であり、深追いはせず、まずは無料の範囲で成功体験を作ることを優先してください。
まずは現状の作業を整理するところから
「どの業務から着手すべきか」は、実際にヒアリングしてみないと見えてこない部分も多くあります。ソロメイカーズブレーンでは、現状の作業フローの整理から、着手する業務の絞り込みまでを一緒に進めるご支援を行っています。
生成AI導入の全体像については生成AI導入の徹底解説記事もあわせてご覧ください。ご相談は「事務効率化・生成AI」の項目から、無料相談フォームにてお気軽にお聞かせください。


