中小製造業が陥る生産管理システム入れ替え失敗の典型例

中小製造業が陥る生産管理システム入れ替え失敗の典型例

「生産管理システムを新しく入れたい、あるいは一度入れたものの現場で使われず困っている」——そうしたご相談は少なくありません。特に、ベンダーに提案依頼書(RFP)を出すような進め方を経験したことがなく、何から手をつければよいか分からないという中小製造業の経営者の方が多くいらっしゃいます。この記事では、パッケージ導入がなぜ思ったように進まないのか、その全体像と難所を整理してお伝えします。

なぜ「パッケージを入れれば解決する」が失敗の起点になるのか

生産管理パッケージは、ベンダーがこれまで多くの現場を見てきた中で蓄積してきたノウハウの結晶です。だからこそ「パッケージに合わせて業務をやれば、うまくいくはず」と考えるのは自然な発想です。しかし、これがそのまま自社に当てはまるとは限りません。パッケージが持つ標準機能と、自社の現場業務との間には、必ず何らかのずれがあります。このずれを事前に確認する作業を飛ばしてしまうことが、失敗の起点になります。

現状の業務フロー(AS-IS)を分析せずに導入すると、このずれが解消されないまま現場に残ります。現場からすれば、ある日突然、これまでと違う入力作業を求められ、慣れた操作方法が変わり、属人化していた進め方とも噛み合わない状態になります。「めんどくさい」「使えない」という反応が出るのは、むしろ当然の結果です。

たとえば、導入前から使っていたソフトと、新たに導入したソフトを並行して使い続けていた会社があります。事務方を含めて20人ほどが関わる規模でしたが、新しいソフトが従来ソフトの機能や現場のニーズをカバーしきれておらず、在庫管理・生産管理・材料まわりの情報を、結局二つのシステムに入力する手間が発生していました。これは「導入したこと」が目的化し、「現場の業務が実際にどう回るか」を詰めきらずに進めた典型例です。

そもそも「導入しない」という結論もあり得る

ここで見落とされがちなのが、高価なパッケージを導入すること自体が目的化してはいけない、という点です。「なんとなく古いから入れ替えたい」という程度で、目的が言語化されないまま相談に来られる経営者も少なくありません。そうした場合、当社では背景と必要性を先にヒアリングした上で、「紙とExcelのままでも当面は問題ないのではないか」「高機能なパッケージではなく、汎用的なローコードツールで十分賄えるのではないか」という提案をすることもあります。

この判断は、経営者がどれだけ危機感を持っているか、現場がどれだけ問題を自覚しているか、そして投資に見合う予算規模(覚悟)があるかを総合的に見て行うものです。パッケージ導入は解決策の一つであって、唯一の答えではありません。この前提を最初に確認せずに進めると、後になって「そこまでの投資は必要なかった」という後悔につながります。

現場の困りごとを課題に整理してから解決策を選ぶ

現場側の分析をどう進めるか、が最初の山場になります。

まず押さえておきたいのは、現場の要望をそのままソフトの機能要求として渡してはいけない、という点です。導入の目的(現場の生産性向上など)を現場に共有し、現場自身が「何に困っているか」を理解するところから始める必要があります。このとき、誰にヒアリングするかも分析の質を左右します。部署別にプロジェクトチームを組み、実際の業務が分かる管理職などのメンバーを各部署から選出してもらいます。ここで人選を外すと、抽出できる問題点の質そのものが変わってきます。

進め方としては、次の順序をたどります。

  • AS-IS分析(現状の業務フローを把握する)
  • 問題点の抽出(現場が感じている困りごとを集める)
  • 課題整理(問題点を集約し、対応すべき課題にまとめる)
  • 解決策の検討(ソフト導入はその解決策の一つに過ぎない)
  • TO-BE像の策定(あるべき業務の姿を描く)

この分析の入り口になるのが、業務に付随する帳票を集める作業です。見積書、受注書、請求書、製造管理に使っている帳票など、その業務で実際に使われているものを一通り集めます。手書きの帳票やフォーマットがバラバラな状態が見えてくると、どこに無駄が発生しているかが浮かび上がってきます。

ここで大事な判断基準があります。現場から出てくる問題点をすべて解決するわけではありません。課題として整理する段階で、対応すべきものとそうでないものをふるいにかける必要があります。どうしても譲れない部分だけを、ベンダーへの要求事項として渡すという線引きが求められます。この「ふるいにかける」判断は、業務全体を見渡した優先順位づけの経験がないと難しく、現場の声を全部真に受けてしまうと、要求事項が肥大化してカスタマイズ費用が膨らむ結果になります。

実現手段には優先順位をつける

課題が整理できたら、それをどう実現するかを検討します。ここでも「なんでもカスタマイズすればいい」という発想は避けるべきです。実現手段には、次のような優先順位をつけて考えます。

  1. 標準機能で対応できないか
  2. カスタマイズが必要か
  3. オプションの連携ソフトで補えないか
  4. 採用せず、現状の運用のまま回せないか

カスタマイズするか、運用で回すかを分ける判断基準としては、次のとおり線引きします。

  • 用意している予算とベンダー見積もりの乖離が大きい場合は、運用で回すのが基本です。無理にカスタマイズで埋めようとすると、費用も保守負担も膨らみます。
  • その機能がないと業務そのものが回らない場合は、カスタマイズの優先度を上げます。

ベンダーに相談すると、カスタマイズを増やす代わりに運用のやり方を変える提案が出てくることも少なくありません。「機能を増やす」だけでなく「運用を変える」という選択肢を持てるかどうかが、カスタマイズ費用と定着のしやすさを左右します。

実際の進め方の全体像(規模感を持って理解する)

ここまでの論点を、実際のプロジェクトの流れに当てはめると、おおよそ次のような段階に分かれます。従業員50名程度の製造業を想定すると、プロジェクト全体でおおよそ半年程度、そのうちヒアリング部分は準備期間を含めて1〜2か月程度が目安になります。

「思ったより時間がかかる」と感じる経営者も少なくありませんが、生産管理システムは一度入れれば5年、10年と稼働し続ける大きな設備投資です。この規模の投資であるからこそ、現状把握と要求定義には相応の時間をかける必要があり、ここを急ぐと後工程のずれとして跳ね返ってきます。

最初の一歩は、経営者への確認から始まります。将来やりたいこと(会社としての目標)と、なぜ今このタイミングでソフト導入を考えているのかという背景を確認します。質問はこの2つに固定するのではなく、答えの内容によって必要な部分を深掘りしながら、プロジェクトの進め方の説明につなげていきます。ここで目的が言語化されないまま先に進むと、後工程で作る機能要件や比較の軸そのものがぶれてしまうため、軽視できない工程です。

段階 内容 経験がないと判断を誤りやすい点
初期ヒアリング 経営者に、将来やりたいこと・導入の背景を確認する 目的が曖昧なまま進めると、後工程の要件がぶれる
帳票収集・現場ヒアリング 部署別にプロジェクトチームを組み、業務が分かる管理職中心に2時間×複数回で聞く 帳票を集めても、どこに無駄があるかを読み取るには業務分析の経験が要る
AS-IS分析〜TO-BEロードマップ 問題点抽出→課題整理→解決策→あるべき姿の設計 問題点をどこまで課題として採用するかの線引きが難しい
RFP(要件定義書)作成 TO-BEをもとに、機能要件をまとめる 同じ要件でもベンダーによって標準機能・カスタマイズの回答が割れるため、比較できる粒度まで要件を落とし込む必要がある
提案依頼・選定 5社程度に依頼し、辞退もあるため実際の提案は3〜5社になるのが実情。点数付け・プレゼンで選ぶ ベンダーの回答をそのまま信じず、条件をそろえて比較する視点が必要

提案依頼の際は、こちらで作成したTO-BEの業務フローをベンダーに提示し、それぞれの要件について「標準機能で対応できる/カスタマイズが必要/オプション連携で対応/対応不可」のいずれかで回答してもらう形にします。カスタマイズになるかどうかの最終的な判定はベンダー側の技術的な判断によるため、同じ要件でもベンダーごとに回答が割れることがあります。この回答結果をもとに、次のような項目で点数付けを行います。

  • 見積金額
  • こちらの要求事項にどれだけ回答しているか
  • 標準機能でどこまで対応できるか(カスタマイズが少ないほど、費用・保守の両面で有利)
  • 希望する稼働時期と合っているか
  • 提案内容の詳細さ。標準機能以外の対応方法の提案があるか、こちらの要求定義をどう理解したかの説明があるか
  • サポート体制・レスポンス
  • ライセンス・保守・バージョンアップまで含めた総合的な費用感

点数付けで一定水準を超えたベンダーには、プレゼンの場で担当者・営業の対応や業務理解度を確認します。書面の提案だけでなく、実際に話してみて業務をどれだけ理解しているかを見極める工程です。

つまずきやすい点──よくある失敗とその回避策

失敗パターン①:新旧システムの並列運用による二重入力
冒頭で触れたとおり、旧ソフトと新ソフトを並行運用してしまい、現場が二重入力を強いられるケースです。原因は、旧システムが担っていた機能と現場のニーズをカバーできているかを確認しないまま切り替えたことにあります。導入前にAS-ISとTO-BEを突き合わせ、旧システムが担っていた機能を漏れなく引き継げているかを確認する工程を省くと、こうした事態を招きます。

失敗パターン②:一社の話だけを聞いて導入を決める
AS-IS分析・課題整理・複数社比較というプロセスをすべて飛ばし、一社の営業トークだけを信じて導入を決めてしまうケースです。その一社の提案が悪いわけではなく、比較対象がないまま判断すること自体が問題です。同じTO-BEの業務フローを複数社に渡してみて初めて、「この会社は標準機能でここまで対応できるが、あの会社はカスタマイズ扱いになる」という標準対応範囲の差が見えてきます。一社の話だけで決めると、この差を検証する機会そのものを失ってしまいます。

失敗パターン③:カスタマイズの繰り返しでベンダーが撤退
より深刻な例として、次のような一連の流れがあります。

  • AS-IS(現状の業務)をそのまま新システムに載せようとし、カスタマイズ範囲が大きくなる
  • 導入後に「現場に合わない」という不満が出て、追加のカスタマイズを依頼する
  • 追加代金が発生し、これが繰り返される
  • 最終的にベンダーが「これ以上対応できない」として撤退する
  • 補助金を使っていた場合、最後の研修が終わらず実績報告に間に合わず、申請できないまま投資額が全額自己負担になる
  • 使えないシステムだけが残り、その後は紙とExcel運用に戻る

どこで止めるべきだったかを振り返ると、最初にAS-ISをそのまま載せようとした時点、そしてカスタマイズの優先順位(標準機能→カスタマイズ→オプション→運用で回す)を決めていなかった時点に問題があります。カスタマイズが増えていく途中で「本当にこの機能が必要か」を見直す機会は何度もあったはずですが、その判断基準を持っていなかったために、なし崩し的に投資が膨らんでいきました。この事例では投資規模が数百万円単位に及びました。

データ入力の精度が導入成功の決め手になる

ソフトはデータを入力しなければ機能しません。入力の手間が新たに発生することは避けられない前提として認識しておく必要があります。入力する人が迷わない運用にすること、担当・承認のワークフローをきちんと作ることが、精度を担保する土台になります。これは現場の人と一緒に考えるべき部分で、システム側だけで解決できるものではありません。精度の悪いデータを入れれば、出てくる結果も悪くなります。ここを「導入すれば自然に定着するはず」と軽く見てしまうと、標準機能とTO-BE設計をどれだけ丁寧に作り込んでも、現場では結局使われないという結果になりかねません。

補助金を活用する場合の注意

補助金を使ってシステム投資を行う場合、実績があり信頼できるベンダーか、導入・稼働時期の見込みが立っているか、こちらの要求をきちんと理解しているかを、補助金が動き出す前に詰めておく必要があります。制度の内容・要件・採択率などは変更されることがあるため、実際に活用を検討する際は、最新の公募要領や公式情報を必ず確認してください。

まずは現状の整理からご相談ください

生産管理システムの入れ替えは、AS-IS分析や課題整理の段階でつまずくと、後工程すべてに影響します。「何から手をつければいいか分からない」という段階でも構いません。

ソロメイカーズブレーンでは、現場・原価の見える化(IoT)の支援の中で、生産管理システムの入れ替え・導入プロセスについてもご相談を受けています。無料相談フォームから「現場・原価の見える化(IoT)」を選んでいただければ、状況に応じた進め方を一緒に検討させていただきます。

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